12. 知的財産権の効力
12.1 保護期間(存続期間)
12.1.1 特許法
12.1.2 実用新案法
12.1.3 意匠法
12.1.4 商標法
12.1.5 不正競争防止法
12.1.6 著作権法
12.2 効力
12.2.1 特68 特許発明の実施をする権利の専有(★なぜ占有ではないのか)
12.2.1.1 存続期間延長の場合 特68の2
12.2.2 実16
12.2.3 意23
12.2.4 商25 指定商品(役務)について登録商標を使用する権利を専有
12.2.4.1 類似範囲は禁止権のみで専有しない
12.2.4.1.1 類似範囲での使用・・侵害とみなす行為(商37)
12.2.5 効力の及ばない範囲
12.2.5.1 特69(実26・意36準用①②)
12.2.5.1.1 特69①試験・研究
12.2.5.1.2 特69②1 日本国内を通過するだけの交通機関
12.2.5.1.3 特69②2 出願日前から日本国内に存在する物
12.2.5.1.4 特69③ 調剤行為
12.2.5.2 商標
12.2.5.2.1 商26①
12.2.5.2.1.1 1)自己の肖像等
12.2.5.2.1.2 2)商品の普通名称等識別力等ない商標
12.2.5.2.1.3 3)役務の普通名称等識別力等ない商標
12.2.5.2.1.4 4)慣用商標
12.2.5.2.1.5 5)商品等が当然備える特徴のみからなる商標
12.2.5.2.1.6 6)識別機能を発揮しない使用形態の商標
12.2.5.2.2 商26③
12.2.5.2.2.1 地理的表示
12.3 侵害に対する救済
12.3.1 差し止め請求権
12.3.1.1 ★差し止め請求権の要件事実
12.3.1.1.1 自己(原告)が特許権者(又は専用実施権者)であること
12.3.1.1.2 相手方(被告)が、侵害行為をしていること
12.3.1.1.2.1 ① 業として(別紙目録記載の)物の製造等(又は方法)を実施していること
特許法100条でいう、特許権又は専用実施権を侵害する(侵害するおそれ)とは、特許法第68条に規定された、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」に反して、特許権者の「専有」を侵す行為、すなわち、特許法第2条3号に規定された、発明の「実施」行為を権原なく行うことである。
12.3.1.1.2.2 ②(別紙目録記載の)物(又は方法)は、原告の特許発明の技術的範囲に属すること
さらに侵害か否かは、最終的には、被告が実施した物(方法)が、特許発明の技術的範囲に属するか否かにより決定される。特許発明の技術的範囲に属するか否かは、特許法第70条第1項により、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。
ここで、目録記載の物件(方法)を慣例的に、イ号物件(方法)とか対象物件(方法)という。
12.3.1.1.3 ★要件事実とは、実体法の規定における、権利の発生、障害、消滅等の各法律効果の発生要件に該当する具体的事実をいう。
一般に、主要事実(直接事実)と同様の意味で用いられ、間接事実(事情)と対比される(有斐閣・法律学小辞典)
12.3.1.1.3.1 1)権利根拠規定 一定の法律効果の発生を定める規定
特100条 特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
12.3.1.1.3.2 2)権利障害規定 法律効果の発生を妨げる旨を定める規定
特69条 特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。
特78条2項 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。(特許権行使に対する抗弁事由として通常実施権の許諾を受けたこと、自己の行為が設定範囲内の行為であることの主張・立証により差し止め請求権の存在を否定)
12.3.1.1.3.3 3)権利阻止規定 権利の行使を阻止する権利を定めた規定
特104条の3 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
12.3.1.1.3.4 4)権利消滅規定 一旦発生した法律効果の消滅を定める規定
特67条 特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
12.3.2 損害賠償請求権(★損賠賠償請求権の要件事実)
12.3.2.1 法的性質は民法709条以下の不法行為に対する損害賠償請求
12.3.2.2 民法709条による損害賠償請求の要件事実は次のとおりである。
12.3.2.2.1 イ 権利又は法律上保護される利益の存在
12.3.2.2.2 ロ 当該権利の侵害(違法性)
12.3.2.2.3 ハ 侵害行為が故意又は過失によりなされていること
12.3.2.2.3.1 過失の推定(特103)
12.3.2.2.3.1.1 ★特許法103条と責任法上の注意義務 知財研紀要 2012 Vol.21 露木美幸
12.3.2.2.4 ニ 相当因果関係のある損害の発生とその額
12.3.2.2.4.1 損害額の算定/損害の額の推定等 特102
12.3.3 信用回復措置 特106
12.4 侵害論
12.4.1 法的三段論法・・「大前提」=法律 (要件事実) ・・・「小前提」=事実 (主要事実)・・・「結論」(判決)
12.4.1.1 特許権侵害に基づく差止請求権の要件事実は、特許法100条に
「特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」
とあるので、具体的には次の通りである。
イ 自己(原告)が特許権者(又は専用実施権者)であること
ロ 相手方(被告)が、侵害行為をしていること
侵害行為があるかどうかは、相手方が、何らの権原もなく、特許発明を実施していることであり、具体的には、実施している対象物件(イ号)が特許発明の技術的範囲に属するか否かとなります。
そして、属否論も、特許請求の範囲を法律の条文と見立てて、三段論法で判断する。
「大前提」=請求項記載の特許発明=構成要件(要件事実) ・・・「小前提」=相手方の実施行為(イ号実施品)事実 (主要事実)・・・両者を対比し、イ号の構成要件が、請求項の構成要件に該当するか否か(構成要件該当性)を判断し、「結論」を出す。
12.4.2 特許発明の技術的範囲
12.4.2.1 出願経過の参酌
12.4.2.1.1 出願経過において、権利取得のために、出願人が主張・立証した事由(意見書の記載等)や、補正書で示した補正内容などを、権利解釈の資料として参酌するものです。
出願経過参酌は、一般的には被告の方から主張され、発明の技術的範囲を制限的に解釈すべき方向に働きます。
なお、出願経緯は、均等論の第5要件(意識的除外)に関連します。
12.4.2.1.2 包袋禁反言(信義則)
出願経過で出願人が主張してことと、反する方向の解釈は原則許されません。これを、包袋禁反言とかファイルラッパーエスペットルとか言います。
但し、権利を取得する以上、やむを得ず言った場合と、出願人が不用意に誤って言ってしまった場合は問題があるようです。例えば、東京地判平成13年3月30日では、無効審判で、特許権者が不用意に言ってしまったことを侵害訴訟に影響すると思って撤回したケースです。『特許判例百選』(前掲176頁)参照。
12.4.2.1.3 意識的限定
12.4.2.2 公知技術参酌
12.4.2.2.1 ●炭車トロ事件(最高裁 昭和37. 12. 7.)は、「出願当時の技術水準を参酌して、あるいは出願当時の公知技術を除外して特許発明の技術的範囲を解釈すべし」と判示しています。
これは、無効審判と侵害訴訟の二元的制度で問題となりますが、この判例は、新たな要件を読み込んで解釈するものではないので、現在でも維持されやすいとの考え方がある(特許クレーム解釈の論点をめぐって・発明協会)
12.4.2.2.2 ●一方、液体燃料燃焼装置事件(最高裁 昭和39. 8. 4)では、「出願者は、その登録請求の範囲の項中往々考案の要旨でなく、単にこれと関連するにすぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事記の記載を遺脱することもある」「『登録請求の範囲』の記載の文字のみに拘泥すること無く、すべからく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである。」とし、クレームの中に含まれる公知技術があったときに、クレームに書いていない要件を付加して特許性を是認した上で技術的範囲を限定解釈し、被告製品を非侵害とした例です。この当時は、無効の抗弁のない時代のため、このような解釈がなされましたが、現在は、無効論で解決できるので、無効の抗弁で争うことになります。
以上から、公知技術を含み、無効とされるべきときは、無効の抗弁で対処し、公知技術を含むが、無効とまではならない場合には、クレームを修正することなく限定解釈するということになろう。
12.4.2.3 作用効果不奏効の抗弁
12.4.2.3.1 侵害品が特許明細書に記載された作用効果を奏しない場合、特許発明の技術的範囲に属しないとする
12.4.2.4 特許法36条違反による無効理由がある請求項の解釈
12.4.2.4.1 無効理由がある場合、無効の抗弁(104条の3の権利行使の制限の抗弁)との関係が問題となります。無効の抗弁に対しては、訂正で対抗できるので(訂正審判、訂正請求)、無効の抗弁を使う場合も、訂正との関係においてどうなるかを考慮し、技術的範囲の解釈でも対応できるように考えておく必要があります。
特許法36条違反の場合では、明細書の瑕疵が相当ひどい場合、無効の判断となるでしょうが、36条の問題があるが解釈論もできるという場合、裁判官の裁量でいずれかになる可能性があるでしょう。
12.4.2.5 機能的クレームの解釈
12.4.2.5.1 機能的表現で、文言上技術的範囲に含まれるが、実施例を見ると1個しかないような場合、実施例と、それに非常に近い、均等物の範囲が技術的範囲であると解釈される場合があります。米国特許法126条第6パラグラフの逆均等という概念に近い解釈指針です。
12.4.2.6 プロダクト・バイ・プロセスクレームの解釈
12.4.2.6.1 製法でクレーム特定した物の発明、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈には、諸説ある。
通説的な立場は、物同一説といい、被疑侵害品とクレーム記載の物とが物として同一である場合には、被疑侵害品は技術的範囲に属するという説です。
これに対し、方法限定説では、例えば、先行技術と差異をもたらすために製造方法の要件を付加したとか、出願経過で製造方法に技術思想の中核があるとの説明をした場合といった、特段の事情がある場合技術的範囲をクレーム記載の製造方法によって製造された物に限定するということになります。
12.4.2.6.2 最高裁判決
12.4.2.6.3
12.4.3 均等論
12.4.3.1 ●「無限摺動用ボールスプライン軸受事件」(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
12.4.3.1.1 「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、
(1)右部分が特許発明の本質的部分でなく、
(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)右のように置き換えることに、当該発明をする技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が、対象製品等の製造の時点において容易に想到することができたものであり、
(4)対象製品等が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時の容易に推考できたものでなく、かつ、
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」
12.4.3.1.2 理由:
「けだし、
(1)特許出願の際に、将来のあらゆる侵害形態を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明かとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、
(2)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第3者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第3者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり、
(3)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができかったはずのものであるから(特許法29条参照)特許発明の技術的範囲に属するものということができず、
(4)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなと、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないからである。」
12.4.4 間接侵害
12.4.4.1 特101 (侵害とみなす行為) 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
12.4.4.1.1 一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
12.4.4.1.2 二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
12.4.4.1.3 三 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
12.4.4.1.4 四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
12.4.4.1.5 五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
12.4.4.1.6 六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
12.4.4.2 商37 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
12.4.4.2.1 一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
12.4.4.2.2 二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
12.4.4.2.3 三 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
12.4.4.2.4 四 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
12.4.4.2.5 五 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
12.4.4.2.6 六 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
12.4.4.2.7 七 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
12.4.4.2.8 八 登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
12.4.5 依拠性
12.4.5.1 産業財産権では不要
12.4.5.2 著作権法は必要
12.4.6 判定制度(特71条)
12.4.6.1 ◼︎加熱膨潤装置事件(特百選47)判定の法的性質
12.5 権利濫用(民法)
12.6 消尽論
12.6.1 ★並行輸入
12.6.2 ★リサイクル商品の扱い
12.7 実施権
12.7.1 専用実施権
12.7.2 通常実施権
12.7.2.1 法定通常実施権
12.7.2.1.1 先使用権
12.7.2.1.2 中用権
12.7.2.2 裁定通常実施権
12.8 抵触関係の調整
12.8.1 特許法72
12.8.2 実用新案法
12.8.3 意匠法26
12.8.4 商標法29
12 知的財産権の効力